地域が作る小さな消費者団体

小さな消費者団体を主宰する山本朝子さん

フランスでは1,200以上のAMAPが存在する

消費者団体の農業への参画は、日本の生活協同組合の共同購入が先進事例として世界に広がっています。アメリカのCSA(Community Supported Agriculture:地域支援型農業)やフランスのオーガニック食材の購入システムAMAP(Associations pour le maintien d’une agriculture paysanne=農家を支える会)などです。日本の生活協同組合は、大きな流通網を持った組織という認識がありますが、フランスのAMAPは1単位は100人程度と小規模です。フランスでは1,200以上のAMAPが存在するといわれており、町の広場など指定の配布所で農産物の受け渡しが行われています。何も大きな生活協同組合で共同購入を行うのではなく、地元でできた農産品は普通に地域で食べる循環ができることが重要です。消費者団体の共同購入に重要なのは、農産物が持ってる価値の評価を消費者団体が行うことです。農家が農薬や化学肥料を使っているのか、あるいは有機栽培を行っているのかというチェック機能が重要視されています。消費者団体が農家の姿勢を認証していることになります。

小さな農家には有機JAS認証は普及しなかった

日本の有機農業に認証を与えているのは国際有機農業運動連盟(IFOAM)の基準に準拠したJAS認証制度です。しかし、農水省が示す有機JAS認証は農作物の品種ごとに生育状況を記録することが必要であり、煩雑な事務作業が農家に生じ、小さな農家には有機JAS認証は普及しませんでした。こうした問題点を解決するために、IFOAMは、有機JAS制度と同等な認証制度である参加型保証システムPGS(Participatory Guarantee Systems)を制度化しました。国が認証を行うJASとは異なり、地域ごとに消費者、生産者が中心となり農場の調査や認証を行い、小規模農家でも対応できる認証制度を開拓したのです。つまり農家の認証を消費者団体に委ねる道を作ったのです。

小さな消費者団体で農産物の流通に貢献する山本朝子さん

この認証制度の理念を理解し、独自の道を切り開いているのが、小さな消費者団体で農産物の流通に貢献するCCC’Cookingの山本朝子さんです。山本さんは有機農家とつながり、自らの栽培基準を設け、自らが農家の現場を確認し、消費者への農産物を橋渡ししています。

年間720万円の売り上げの消費者団体

山本さんが実践している消費者団体の流通に関する具体的な数字を追ってみましょう。山本さんは、50家族(100人程度)に毎週3000円(郵送費含む)で有機農産物を送っています。つまり1週間に15万円の農産物を消費者に送ることを仲介し、1か月に60万円の農産物を消費者に送っています。年間で計算すると720万円の売り上げを2戸の有機栽培農家にもたらしています。山本さんの団体に所属する消費者は商品を前払いし、農家の安定経営に貢献しています。山本さんの特徴は、農家から大きな手数料を取っていないことです。消費者団体としての手数料は5%です。なぜこの手数料で事業として成立するのか。それは山本さんが料理教室や資格講座(オーガニックフードマイスター認定事業)を展開しているため、ほぼボランティアとしてこの事業に関与しているからです。

農家が消費者に送る1ケースには約10種類の農産物が入っており、毎週農家から発送されています。農家の一品目の栽培は一畝ごとでも可能です。農家が、農家の自給のために栽培している菜園の産品の消費者への提供と考えてもよいのではないでしょうか。これは、フランスのオーガニック食材の購入システムAMAPと同程度の小規模であるばかりか、こうして、地域発の生活協同組合は農家側でもできることを示しています。山本さんが作った栽培基準を以下に示します。

山本朝子さんが作った栽培基準

農産品

〇基本的に農薬と化学肥料は使用しません

〇限定的に低農薬品も扱いますが、使用できる農薬は限りなく限定(JAS認定資材)します

〇自家採取種子の保護を推進します

〇雄性不稔の種子は使用しません

〇玄米をはじめとする種物は、発芽実験を行い、生きた種子のみを扱います。そのため乾燥温度の管理を行います

〇生食を推奨する野菜については細菌検査を行います

〇硝酸イオン数値を測定し、施肥の管理を行います

〇不耕起低投入栽培、放射能検査基準限界値1Bq/Kgを推奨します

畜産品

〇飼育環境を管理します(餌/飼い方:アニマルウェルフェア/薬品使用の排除)

〇牛乳に関しては、殺菌温度を管理し、ノンホモジナイズ処理のものを扱います

水産品・水産加工品

〇流通のための保存剤・殺菌剤を使用しません

〇海岸での除草剤の使用、甲板での合成洗剤の使用、海苔の酸処理、わかめの水増しなどに配慮します

〇海流に配慮した漁場を選びます

加工品

〇一切の添加物の排除を基本とします(膨満剤としての重曹、食品そのものを使う着色料は品質を管理して使用します)

〇衛生管理に努め、細菌検査の導入し、適切な温度帯での流通を監視します

〇保存料や殺菌剤(次亜塩素酸ソーダ)を追放するため、物流を管理します

その他

〇包材の管理/製造法の指導/調理法の指導(玄米の扱い方、豆類の煮炊き)を行います

〇伝統的製法、調理法を推奨します

資料:特定非営利活動法人グレインズ・イニシアティブ