キウイフルーツカントリーJAPAN(静岡県掛川市)

平野耕志さん(キウイフルーツカントリーJAPAN代表)

農園はスプーン1杯ほどの種からスタートした

静岡県掛川市の中央部を貫く東名自動車道路、掛川インターチェンジから車で約10分、JR掛川駅からも車で10分程度の地に広がる日本最大級と言われる「キウイフルーツカントリーJAPAN」。この地にキウイフルーツを主とする農園をスタートさせたのはなんと47年前。「父(正俊さん=69=)がアメリカで試験栽培していたキウイフルーツに魅了され友人からもらったスプーン1杯ほどの種からスタートしたんですよ」と、笑顔で私を迎え入れてくれたのが代表の平野耕志さん(36)。「とにかく人が集う場所を作りたいんです」と目を輝かせながら、夢を語るその先に広がる農園には、平日にも関わらず訪れる学生のグループやカップル、さらに親子連れ。仲良しハウスと称した全天候型、一度に370人も収容できるバーベキューが可能な場所でのキウイフルーツ比べ放題やキウイフルーツの下草対策も兼ねた12頭の羊と出会えるふれあいエリア、インスタ映え?する大型ブランコにも興じているエリアからも笑い声が起きる。

進化を目指している

「高いところは苦手なんですけれど…ハハハ」と笑顔で話してくれた母、常代さん(65)に率いられたパート軍団は誰よりも明るい声で、3メートルは超える高所のビニールテントの張替を作業しながら、お客さんや私にも「こんにちは」と声をかけてくれた。「空気はもちろんですが水、太陽の光、土を循環させる農業を目指してるんです」と指さししてくれた先には比べ放題で出たキウイフルーツの皮を集めたごみ箱が設置され、オリジナル品種7種を含む80種を育てている農園の土に返す仕組みを話す。「近所の畑で出た野菜の廃棄物も肥料にしたいと研究中です。水は最後は下部域に作った池にためて、ポンプで上部に戻して散水として使っています。最近では太陽光発電も地元の磐田農業高校の生徒らと共に、より有効な機種や配置、データーを作成しながら取り組んでいるですよ」。自宅を2年前に農地から宅地へ変更した場所に建て、そこにも農園向きと思われる太陽光発電装置を設置して、そこで得たデーターも高校生らと共有してさらなる進化を目指している経緯を話してくれた。

茶畑やミカン畑しかないと思われた場所にもやり方次第で人が喜んで来てくれることが分かった

人が集う場所を意識したアイデアはまだまだ収まらない。農園が一挙に見渡せる高台付近にキャンプが可能なサイトを4か所設置した。それぞれ「茶畑の丘」「大木の丘」「キウイの天井」と名付け年間でキャンパーを受け入れると「観光農園だったときは愛知、静岡の方が中心でしたが、今は大阪や東京を中心とした関東からも来園者が広がったんですよ」と、土日は半年先まで予約で埋まる思わぬ効果に手応えを感じてるものの「サイトはこれ以上増やす予定はないです。茶畑やミカン畑しかないと思われた場所にもやり方次第で人が喜んで来てくれることが分かったので、周辺の農家さんと情報を共有して、サイトを設置してもらい、そこにビジネスが生まれたらそれでいいんです」と、地域の活性化につなげたい思いを加えてくれた。

プログラムを学んだ高校生が会いに来てくれた

さらに「中学や高校の修学旅行生も受け入れる準備をしています」と話す。「民泊している子供たちに、うちで体験学習をしてもらえれば、多くの人が地域全体に流れを作り、盛り上がるでしょ。3年前から学研社と一緒に学生たち向けのプログラムも開発してようやく本格的に学べるプログラムが完成しました。そこで学んだ共有されたアイデアや意見を今度は県や市の人が受け入れてこれまでのマーケティングでは得られない施策につながっています。どうすればうちの農園だけでなく、地域全体が活性化するかをこれからも考えていきたいです」。平野代表のコメントが熱量を増して「東京でキウイフルーツ販売を実施していた際に、プログラムを学んだ高校生が会いに来てくれたんですよ。本当にうれしかったです」とこの日最大の笑顔を見せてくれた。

キウイフルーツは冷蔵技術で一年を通して食べられる

「キウイフルーツはそもそも保存期間が長い。その特性と冷蔵技術で通年、食することが出来ます」と妹の朝子さん(33)がポップにデザインしたパンフレットと共に3月のこの日、同農園で偶発的に生まれた酸味と甘みのバランスが取れた「ピュアカントリー」、香川県産で香りが豊かな「香緑」、涙のような形と甘さが売りの「ティアドロップ」、糖度18度以上で一番人気の「紅鮮」、いずれも美味しい4種類のキウイフルーツをごちそうしてくれた。

農業の可能性、地域の可能性は無限だ

最後も「農業の可能性、地域の可能性は無限だと思います。そのためにもファンを作って行きたいです」と、熱く思いを話してくれた耕志さんには、視察に訪れた本場ニュージーランドのキウイフルーツ栽培者が「こんな前から栽培していたなんて」と驚かせた父親と、誰もが「キウイフルーツ情熱と料理はこの人に敵いません」と、言わしめ公私で農園のPRに人生を賭けてきた母親のDNAを受け継ぎ、まだまだ新しい挑戦を繰り返しながら進化し続けていく。

 

マレーシアのマハティール前首相(97)が訪問

取材前日には大物が農園の視察で来園していた。その人物はマレーシアのマハティール前首相(97)。平野代表によると「循環型農業の視察でした」とのことでキウイフルーツも「食べていたと」のこと。人が集まる場所を目指している平野代表も「外国からの視察も多いけれどまさかの出来事でした。無事に終えてよかったです」とさすがに苦笑いする〝事件〟だった。

Writer:鶴田浩之(元スポーツニッポン新聞社)